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「昨夜、何?」
彼女は俺の言葉に反応した。
俺は生唾を飲み込んだ。
手のひらが汗でびっしょりになっている。
そして、額に汗が滲んで、こめかみを汗のしずくが垂れていった。
「い・・・いや・・・何でもない。独り言だ。気にしないで」
俺は逃げた。
身の安全を確保してからでないと、危険だ。
あっちの世界に踏み込むのは、もう少し安全になってからでも遅くはないはずだ。
早まってはいけない。
「そう、それなら良いけど。朝食は準備してあるから、先にテーブルについて食べちゃってくれる?」
彼女は振り返ることなく、朝食を摂ることを促した。
「う・・・うん、いただくよ」
俺はそういって、テーブルへ向かった。
しかし、何か心に引っかかるものがあった。
彼女は今、なんと言っただろうか。
『朝食は準備してあるから』と言った気がする。
それはいったいどういうことだろうか。
今彼女はキッチンで作っているのは朝食ではないのか。
だとしたら、昼食の準備をしているのだろうか。
「エリーも一緒に食べようよ」
先ほどの言葉から、彼女もまだ朝食を摂っていないはずだ。
「うん。でも、ちょっと時間がかかるから、先に食べ始めて良いわよ」
再び彼女は振り返ることなく作業を続けている。
しかし、よりのよってなぜこういう家具の配置にしたのだろうか、と俺は過去の自分を責めた。
このダイニングテーブルの配置は、キッチンからの導線を考えると、死角になる。
つまり、仮に彼女が悪魔的な何某を準備しており、キッチンから食事中の俺のところへ来るときには、俺は背中をみせていることになる。
それは、奇襲を受けることを意味しており、俺は抵抗する間もなくヤラレル。
せめて心の準備くらいはしたいものだが、それすら許されない。
「どうしたの? どこか痛いの?」
突然背後から彼女の声が聞こえた。
あれこれ考えをめぐらしている間に、彼女の作業が終わっていたようだ。
「い・・・いや・・・ちょっと考え事してて・・・」
2人はテーブルにつき、食事を始めた。
「そういえば・・・」
彼女はおもむろに口を開いた。
「フランク、昨夜床で寝ていたわよ。ベッドまで運ぶの、大変だったんだから」
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