第一章 新婚旅行は思い出の温泉へ

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 始業中のオフィス。  三浦佑-みうらたすく-(29)は、朝から終止、笑顔の東城隼斗-とうじょうはやと-(29)の様子が気になっていた。 ふと視線が重なり、笑顔を返してきた隼斗に苦笑いすると、朝からずっと疑問に思っていたことを問いかける。 「なに朝からニヤけてんだよ?」  佑からの質問を『待ってました』とばかりに、隼斗は身を乗り出すと惚気始める。 「実はさ、来月、新婚旅行なんだよねぇ~」 「新婚旅行? そうか……まだ行ってなかったんだっけ?」 不思議そうに聞き返してきた佑に、隼斗は不満そうに口を尖らせると、未だ、新婚旅行に行けていない理由を語り始めた。 「いやさぁ、意見が別れちゃって。俺は海外に行こうって言ってんのに、まひるは『高いから温泉がいい』って言うもんだから」  控えめな性格のまひるらしい意見に、佑は納得して笑みを浮かべる。 「なんだか、まひるさんらしいな。」 「控えめなのはいいんだけどさぁ~。一生に一度くらい贅沢してもいいのにな」 「それで? 結局どこ行くんだよ?」  佑の言葉に、隼斗はばつが悪そうな顔をすると眉を八の字に曲げる。 「あぁ、それがさ……まひるのヤツ、福引きで温泉旅行当てちゃって」 「まさか……それで新婚旅行っ?」 驚いたように目を丸くして問いかけてきた佑に、隼斗は苦笑いした。 「そのまさかっ」 「マジか……」  隼人の言葉に、佑も苦笑いするしかない。 せっかくの新婚旅行を、なにも福引きで当てたタダ同然の温泉旅行で済まさなくてもいいのではないかと。 だが、そんな佑の心配を余所に、隼斗は意外と諦めが早かったようで、前向きな発言をし始めた。 「まぁ、俺も箱根の温泉なんて久々だから別にいいんだけどねぇ~」 「箱根っ?」 隼斗の言葉に、思わず身を乗り出す。
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