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 自然と涙が込み上げてきた。  歌うことは自分の全てで、存在意義だった。  歌うために生まれてきたと、生きているとさえ思っていた。  それが今、歌う場所を奪われ、人々の関心は薄れ、歌うことで命を縮めるという皮肉。  もう自分でどうしたいのか、どうすれば良いのか分からず、今頭にあるのは彼に会いたいということ。  けれど、彼に会ってどうするのかなどとは全く考えておらず、ただ本能のみで街をさまよっていた。  そんな座り込んだままの私へ、ゆっくりと手が差しのべられた。  私はその手に気がついて、視線を上に上げた。
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