26人が本棚に入れています
本棚に追加
やわらかな光に照らされ、薄い桃色の花弁が舞うある春の日。
道場と思われる建物の前に影ひとつ。
それは入口らしき場所へ手をのばした。
「優樹、そろそろ朝練終わらせないと式に遅刻するよー!」
立て付けの悪い木製の扉が中の凛々しい掛け声にひけをとらない音で開き、それらとは正反対の馴染みのある優しい声が道場に響いた。
優樹と呼ばれた少女は壁にかけてある時計を見ると、慌てて稽古をやめた。
「うわっ、もうこんな時間か!?はよ、昴兄。毎朝呼びにきてもらって悪い!今行く!」
そう言い道場から出ようと走った
「優樹、待った」
はずだった。
何でかわからないけれど、仁王立ちした昴兄に止められてしまう。
状況がいまいち呑み込めず、腰に手をあて出口を塞いでる彼を恐る恐る見上げた。
「優樹も今日から高校生でしょ?その言葉遣い直そうね。女の子らしくなりたいんじゃなかったの?」
微笑みながら諭すように言っているようにみえるけど、昴兄の眼鏡の奥は笑ってない。
「わかってるって!だから努力はするよ」
私今、顔がひきつってるだろうな。
「じゃあ、この制服は何かな?」
そう言った彼が持っていたのは今日から通う桜鞠(オウリ)高校の男子用の制服だった。
最初のコメントを投稿しよう!