「付き合ってますけど、何か?」

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「俺が通ってた高校はさ、全国大会で優勝候補になるくらいのラグビーの名門校なんだ。 毎年花園出てさ、その時チームメイトだったのが、さっきの奴の兄貴の塚本猛。 猛とはチーム内で1番気が合って、いっつもつるんでた。 見た目は、まああいつの兄貴だからさ、顔もすげー美形で、『お前ら名前、逆じゃねぇの』ってよく言われてたな。 あ、話それたか」 ここで、晴海くんはズズッとコーヒーをすすった。 私たちは悠里ちゃんの部屋で、3人輪になってマグカップを手に地べたに座っている。 先程の騒ぎが嘘のように、部屋は静寂を取り戻していた。 「違う高校に通う弟がいるって話はよく聞いてたんだ。 見てくれは似てるんだけど、フラフラしてどうしようもない弟がいて、心配してるって、な」 私と悠里ちゃんは無言で頷いた。 それを見てまた頷いてから、晴海くんが続ける。 「多分、チームは強かったし、俺もそこそこ名前は通ってたから試合を見に来ることやそこで俺を見たことがあったんだろうな、あの弟。 だから見覚えがあったんだろ。 バーベキューの日に見たからじゃなくて」 その言葉に、首を捻る。 「ねぇ、晴海くんは気がつかなかったの…? その…あの男が悠里ちゃんとマックに居るの見たとき」 今この場で気づくくらい似ているならそのとき何らかの引っ掛かりがあってもいいはずだと思うのだけど。 しかし晴海くんは、ゆるゆると首を横に振った。 「あん時は、結構距離があったしな。 それに俺は、ついさっきまであいつの顔、思い出せなかったからな」 意外な言葉に、息を飲む。 晴海くんが、自嘲気味に笑う顔なんて初めて見た。
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