「付き合ってますけど、何か?」

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望まない事態、招かれざる客というのは、どうしてこうも立て続けにやってくるのか。 その日も私は店舗奥にある藤代家のキッチンで昼休憩を取りながら、マスターに借りていたミステリー小説を読んでいた。 忙しい日はカウンターの内側で食事を済ますこともしばしばだが、最近はこうやってゆっくりとお昼をいただいていることが多い。 高遠くんがバイトに入ってから、シフトが若干楽になったからだ。 今日もこうやって休憩をしている間、彼がホールに立ってマスターを補助している。 「千紗さん…ちょっと」 その高遠くんが遠慮がちに私を呼んだのは、『犯人として疑われていた第一発見者が行方不明になり、捜査が振り出しに戻ったところ』だった。 「どうしたの? 何かあった…?」 仕事の飲み込みが早く、何でもそつなくこなす彼が何か聞いてくるのはすごく珍しい。 何事か、とパッと顔を上げると、「いえ、そうじゃなくて」と、高遠くんが親指で背後を指した。 「お客さんです、千紗さんに」
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