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「久しぶり…千紗」
一年間以上ぶりに見る彼は、
記憶の中のそれとは、まるで別人だった。
以前は、営業という職業柄身だしなみには気を遣って綺麗に整えられた髪型や衣服は無造作に乱れ、肌ツヤは無く頬はこけていた。
何より、あの頃は自信に満ちていた雰囲気が、見る影も無い。
それでも、ぽっかりと空いていた期間がまるで無かったかのように、あの頃の感情が急に蘇って来たような気がした。
無理矢理閉めていた蓋が…
…外れた。
頭の中で、建て付けの悪い重い鉄扉が勢い良く閉まる音が響く。
私の時間は、あの時から止まっていたんだろうか…?
「敦史…」
店の入口前に立っていたのは、かつての婚約者、市原敦史だった。
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