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会社を辞め、あのアパートを出て実家に帰って以来、会うのは初めてだ。
はっと振り向いて、マスターを見た。
「すみません、マスター。
ちょっと出て来ても…」
マスターは少し首を傾け、柔らかく微笑んだ。
「まあそれはいいけど。
今はお客さん少ないから、ここでも大丈夫だよ?
今、コーヒー淹れるから」
マスターの言葉に、少し迷った。
店内を見渡すと確かに客は少ない。
奥のベンチ席に年配の女性、中央の島に中年の男性、
窓際にーーー柾方さん。
、
それでも、ここで話す方が穏やかでいられるかもしれない。
外だと、話の流れによっては感情的にならないとも限らないから。
「すみません」
マスターに頭を下げて、
「ここで、いいかしら」
すぐ脇の、ステンドグラスの壁裏の席に頷く敦史を座らせた。
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