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土壇場で「待ってください」と言った私に構わず、十鳴先生の手の中で、小さな缶は呆気なくさらりと崩れ落ちた。
「さあ、これで私達は元通りです。
もう何も心配することはない。
……遅くならないうちに、お帰りなさい」
「先生…」
離れ難くて、立ち上がれない私の腕を引いて立たせ、廊下へ出るドアへと誘導する先生。
「せんせ…っ」
廊下へポンと背中を押され、よろけてから振り返ると、
「幸せにおなりなさい」
泣き出しそうな、笑顔の前で、
ドアがピシャリと閉まった。
窓の外、
嵐は、嘘のように引いていた。
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