序章

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しかし、閉鎖空間での生活故に、それでなくとも思春期の不安定な時期故、いくら選りすぐりの優秀な生徒たちと言えども(逆にそうだからこそ?)悩みが尽きない。 その問題に対処すべく、この学園内には変わった施設があった。 『相談棟』と、当たり障りの無い響きを持つその建物は、その名の通り、生徒の相談を受け入れる場だ。 元は創立当時に建てられた旧校舎(ちなみにもうじき創立100年を迎える)を、そのまま保存すれば間違いなく市の重要文化財に指定されていたであろう歴史ある西洋建築を20年前に改築し、校舎の別棟とした。 その中に、生徒の様々な悩みを受け止める為の施設を設けたのだ。 それだけなら、さして特殊ではないと思われるかもしれない。 しかし驚くのはその、『相談棟』内に設置された『相談室』の数。 学業についての相談を受け付ける『第一相談室』から始まり、その学業も細分化されて複数の相談室が続き、クラス、学校生活、寮生活、課外活動、…家庭環境、更には恋愛の悩み…等々、とにかく在学中の生徒が抱えそうな悩みの、ありとあらゆるジャンルに対応した数の相談室があり、正確にいくつあるのかはあまり知られていなかった。 明治、大正の洋館をイメージさせるいわゆる西洋建築的な平屋の建物は、ただ真っ直ぐに伸びた廊下の片側に部屋がずらりと並び、その1番奥まで到達するまでに大体の生徒は自分の悩みに合った相談室を見つけることができるからだ。 恐らく、1番奥の部屋まで生徒が来ることは無いだろう。 余程、特殊な事情を抱えない限り。
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