さんざんな序章

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傘、盗まれたんだった。 まずい。非常にまずい。これは遅刻する。そして、濡れる。 9畳のマンションの玄関口で慌てて靴を履いて、傘を取ろうとかがんだまま手を伸ばせば、スカッと手が空を切った。 実家では”傘は一人につき一本”が当たり前だったため、引っ越してきたときも一本しか持って来なかった。だから、予備の傘なんてない。もちろん、折り畳みなんて「一回ずつたたむなんて、めんどすぎる。普通の傘で十分だし。」という自身の主張により、持ってすらいなかった。 「どうしよう。日傘・・・・はあるけど、雨の日に日傘なんてさしてたらおかしいし。」 チラッと腕にはめた時計を見ると、急げば講義にギリギリ間に合うといったところ。 「仕方ない。覚悟を決めよう。たとえ濡れても乾く乾く。それより講義に遅れた方がやばいよね。」 こんな時に限って遅れたら出席点がもらえない中国語の講義。あの教授なら小言までついてくるに違いない。 こんなことなら、盗まれた日に買いに行けばよかったと後悔してもしかたない。 そう思いながら、玄関の扉を開けて奏子は雨の降る道路へと歩き出した。
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