さんざんな序章

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奏子は大層な田舎出身だが、この春めでたく大学生となった。初めての一人暮らし。初めての私服登校。期待に満ち満ちた大学生活。広いキャンパスで新しいおしゃれな友達とうふふあははな生活を送る予定だった。が、現実はそんなに甘くはない。田舎では店がないためにできなかった放課後の友達とのショッピングは授業が終われば「それじゃ、また明日~」という友達のきっぱりさっぱりとした言葉で話題にもならずに断念。昼食はおしゃれなランチをと思えば、肉肉しいメニューが並ぶ学食。土曜日も授業があるため、ゆっくりできず、日曜日は一週間の疲れでノックダウン。想像以上に楽しみのない堅苦しい生活が私の期待に満ちた心臓を叩きつぶした。 「つ、つかれた・・・」 雨の中全速力で校舎への坂を駆け上った奏子は息をぜいぜいと切らしながら、教室の後方近い席に座る。今日はぎりぎりファンデーションをはたき、眉を描いてまつ毛をあげただけなので、後でトイレで化粧をしなければならない。しかも、雨に濡れたため、髪もぼさぼさになってしまった。 「奏ちゃん、今日はぎりぎりだね~?寝坊?」 そういいながら笑顔で尋ねてくるのは、朝からばっちりメイクで、茶髪に染めた髪をポニーテールにしているハルちゃん。本名を、岸田晴香という。どこから見ても同い年とは思えない見た目だが、中身は大層変人であることがこの2か月で判明している。 対して、奏子の外見は一言でいえば、地味。染めていない髪に先の長休みでパーマをかけたが、パーマというものは1度かけたくらいでは定着しないそうで、奏子の髪は微妙なウェーブがかかっている。その上、色白な晴香の隣に立つと肌の色が黒いことがよく目についてしまう。身長は平均。母親にとっては不満な高さらしいが、そこだけは奏子は満足している。まあ、全体的に平凡。目立つ要素はかけらもない。 「はい寝坊です。遅くなってごめんね。席、とっておいてくれてありがと。」 「はいよ。しかもずぶ濡れってか?傘は?あ、盗まれたんだっけ?」 「うん、しかも、来る途中でキーホルダーも落としたみたい。」 鞄を置いたときにいつもつけているキーホルダーがないことに気付いたが、どこで落としたのか全く心当たりがない。
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