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ぐったりしながらマンションへの近道である路地に入る。4時にもなったのに気温は下がらない。
と、魚の入った袋が急に重くなった。
「にゃ~」「にゃ~」「にゃ~」
「うわっ」
重くなったと思ったと同時に真っ黒の毛玉がぶらさかがっていた。
「ねこっ」
「にゃ~ 」「にゃ~」「にゃ 」
まだ幼く小さい黒猫の兄弟のようだ。
「かわい~」
自他共に認める猫好きの奏子にとっては今日初めての幸運である。にゃ~にゃ~鳴きながら、袋にぶらさかがってこちらを見上げてくる姿はとても愛くるしい。でも、魚にとっては災難である。きっと爪がとどいて、もう食べられないだろう。黒猫達が必死にしがみついているので奏子はその場にしゃがみこむと、そろそろと手を伸ばしてみた。すると、袋が下がったのでぶらさがる必要のなくなった子猫達は座りこんでじっとしてくれた。
「人に慣れてるのかな?」
一匹の喉に手を伸ばして、くすぐりながら観察する。
「首輪はなし。でも、毛並みはきれいだし、清潔にされてるみたい」
野良猫でこんなにきれいな猫はいないだろう。のんびりと撫でながら奏子はこの子達のお母さんはどこだろうと考えていた。
「すみません、その子達、返してもらえませんか?」
日陰にしゃがみこんで子猫達と戯れて幸せ~なんて考えていた奏子は後ろから男性に声を掛けられて心臓が口から出るかと思うくらい驚いて、肩を揺らす。
「その子達、返してください」
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