第一夜

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意識を指先に、唇が刻むのは花の成長を促す魔法。身体中を包むのは集中が高まり、ピリピリとした魔力。目蓋を閉じて脳裏に思い浮かべるのは咲き誇る大輪の花。 「我が呼び声に応え花の精よ」 足元にうっすらと浮かび上がる魔法陣に、そこまで限界ギリギリに溜めていた魔力を一気に注ぎ込む。 意識が目の前に置かれた花の植木鉢に向かい、指先を蕾状態の芽に指し示す。そして動き出す魔力の気配。 頭には先ほど思い描いた花の姿。それを期待しながら、目蓋を開けた。 「咲き誇れ!」 だが 「……」 視線の先には魔法演唱前と変わらぬ蕾のままの植木鉢。 「…あれ?」 いくら首を傾げて開花を待とうとも花が咲きだす気配すらない。 (た確かに魔法が発動したはずなのになんで…!?魔法陣だってちゃんと何度も確認して間違ってないし!!演唱も言い間違ってないのに…) 順序を確認しながらも、段々と背筋に冷や汗が流れる。 こんな調子じゃいけないのに。 混乱する私を冷笑するように目の前の植木鉢に変化はない。 「また失敗かよ、本当に才能ないじゃないのか」 明らかに隠す気のない悪意の声。振り返れば、同い年の男の子が私を見下すように立っていた。手には立派に咲いた大輪の花。 「…あ」 周りを見渡せば私以外の全員が見事に花を咲かせていた。私は静かに物言わぬ蕾のままの植木鉢へと視線を移す。自然と俯いてしまう。 「お前、こんな簡単な魔法すら成功出来ないじゃ卒業なんて無理じゃね」 意地悪い笑顔で私を鼻で笑うと、男の子は花を片手に魔法院の先生の元へと駆けていく。そんな自信に溢れる背中に言い返す言葉すら浮かびはしなかった。 *** 「ルーン……また貴方だけが追試ね」 誰も居なくなった魔法院のホール。ほとんどの生徒が帰って静かな場所に先生の呆れたような声が響く。 「…はい」 項垂れるしかない。あの後も粘って何度も魔法を唱えたが、蕾は咲くことはなかった。その間にも居残りする生徒はいなくなり、高かった太陽がいつの間にか西へと沈もうとしていた。 (…情けない) 結局、私の在籍するクラスで居残ったのは私一人だけだった。 「…今日はもう暗くなるから帰りなさい。明日、追試しましょう」 「…はい」 頷くことしか出来なかった。
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