~“it”(それ)と呼ばれた子~

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1970年冬、カリフォルニア州ディリーシティー。 ぼくたちはお腹を空かせて、暗がりで震えていた。地下のガレージで、お尻のしたに両手をしていて座っている。頭を後ろにのけぞらせ。手はとっくにしびれてしまった。首と方が、ガクガクしてくる。だけど、痛いのをわすれるやり方なら分かっている。 ぼくは9才で、母さんの捕虜だ。 何年も前からずっと、ぼくは『家族』にのけ者にされている。はじめのうちは、自分が悪い子だからと思った。でも、そのうち、母さんは病気なんだと思うようになった。だって、母さんが変わってしまうのは、兄弟がそばにいなくて、父さんも仕事に出かけている時だけだから。 ぼくには『家』なんかない。家族と呼べるのもない。よくわかってるんだ、今もこの先も、愛情や思いやりなんかまるで縁がないしそれどころか一人前の人間扱いをしてもらうこともないって。ぼくは名前を呼んでもらえない、『it』と呼ばれる子なんだ。 上の階段では喧嘩が始まっている。夕方の四時を過ぎてから、父さんも母さんも酔っぱらっているんだ。大声があがる。悪口を言いあい、ひどい言葉でののしりあう。
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