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一緒に暮らし始めて、ある頃から、僕は彼女が猫みたいだと感じるようになった。
それは傍らに仔猫が居るおかげで、すごく強く感じた。
彼女は寝たいときに寝て、起きたいときに起きて、そのくせ食事の時はきっかり時間通りに食べるという、自由な性格を持っていた。
いつもソファーの上で仔猫と一緒にゴロゴロと遊んでいる。
その姿を眺めているだけで、なぜか幸せな気持ちになれた。
「雪、ご飯を食べよう」
僕が声をかけると、ぱっと起き上がって、嬉しそうにかけてくる。
仔猫もその後について、今度は彼女の足元でゴロゴロし始める。
けれどそんな彼女について、僕は何も知らない。
拾って来た日、何も言わない彼女に何処に住んで居るのかと尋ねたことがあった。
けれど彼女は「家はない」と言って、それきり一切の情報を教えてはくれない。
だから僕は、彼女が自分から言ってくれるのを待つことにした。
家はないと言った君を、僕はそのまま自分の家に置き、自由にさせた。
本来なら、こんなこと考えられたことではなかったが、僕は君の為なら、何でもしてあげたかったんだ。
「陽介」
突然に、君が僕の名前を呼んだ。
柔らかく、暖かく、酷く可愛いらしい声で。
「どうした?」
そう、自然と微笑んでしまう。
君は雨の上がった空を見上げ、窓に身を乗り出して、ゆっくりと指を差して口元を緩めさせた。
「空?」
雪のそばまで行って、一緒になって空を見上げた。
「ぁ…」
見上げた途端、小さくそんな声が漏れた。
「虹だ」
僕が空に掛かった虹に気付くと、雪は嬉しそうに笑った。
そう、君はこういう美しい世界を見つけるのが得意なんだ。
君の周りだけ、違う世界に感じる。
その美しい世界を、君は僕にも分けようとしてくれる。
窓辺には少し成長した仔猫が座っていた。
二人と一匹で、その虹が消えるまでしばらくそのままで、美しい世界を見つめていた。
君の感じる世界を、僕も感じたいから…。
あの日君と出会えた事は、偶然なんかじゃないと願った。
君との出逢いはきっと、運命の必然なのだと信じたい。
君にも、そうなのだと信じて欲しいと願った。
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