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幸せな毎日は…
いつまでも続くと願っていたのに。
ある日突然、その日は訪れた。
雪が、仔猫ではなくなった猫を置いて、僕の前から消えてしまった。
「雪、雪…っ!?」
―*―*―
仕事から帰ると、いつもの出迎えがなかった。
あの日溜まりのような、幸せをくれる笑顔が、今日はなかった。
リビングのテーブルに、雪の文字で置き手紙があった。
―陽介へ―
今まで素性も知らないあたしを側に置いてくれてありがとう。
すごく楽しくて、すごく幸せだったよ。
何も言わないで出ていくことを許してね。
せめてと、シロは置いて行くから、その仔をあたしだと思って、可愛いがってあげてね。
本当に今までありがとう。
そして、何も言わずに消えてごめんなさい。
陽介が大好きだよ。
―雪より―
「嘘、だよな…?」
そうだ、これは悪い冗談なんだ。
雪が何も言わずに居なくなるなんて…。
「シロ、雪は、俺をからかっているだけなんだよな?そうだよな?」
雪の居なくなった部屋で、シロと二人きりで、急に光が消えたようだった。
「ンナァ…」
シロがそう小さく鳴いた。
あの日のような幸せな鳴き声ではなく、もう帰っては来ない飼い主を思って…。
シロの鳴き声を聞いた途端、僕は弾かれるように立ち上がった。
「雪!雪…っ!」
しきりにそう叫ぶ。
やはりまだ信じられなくて、もしかしたらまだ近くに居るのかも知れない。
と、僕は急いで家を飛び出した。
玄関を開けた隙に、シロまでもが外へと出てしまっていたのに、僕は雪を探す事で頭がいっぱいで連れ戻そうとは考えなかった。
「雪…っ!」
彼女の名前をただ叫ぶ。
始めて出逢った季節は秋の終わり頃だった。
そして今はもう真冬で、雨なんか降らなくても白い息が灰色の空へ上っていく。
きっと寒いだろう。
凍えてしまっているかも知れない。
「雪、どこにいるんだよ…っ?」
突然に彼女が消えてしまった事に、胸が締め付けられる。
好きだからこそ、側に置いたんだ。
愛しているからこそ、側に居て欲しかったのに。
雪は僕の側を離れた。
「頼む…、帰ってきてくれ…っ」
僕を、ひとりにしないで………。
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