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雪の行くところに、心辺りなんてない。
ただやみくもに街を走り回って、どこにいるかも知れない雪を探し続けた。
今夜は特別寒くて、きっと一人じゃ耐えられないから…。
いつもみたくソファーで隣に座っていて欲しかった。
「雪…雪………」
苦しさに涙がにじむ。
ずっと続くと願っていたのに、こんなにあっさりと幸せな日々は終わりを告げた。
ひとりになった部屋に、いつ帰って来たのか覚えていない。
あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろう?
結局雪を見つけきれないままで、雪の代わりだと置いて行かれたはずのシロさえも消えてしまったままで…。
「そうだ、仕事、行かなきゃだよな…?」
独り言のようにそう呟いたけれど、今は何もしたくなかった。
雪を失ったことで、体の半分までもが失われたようで、ただ呆然と独りきりの部屋を僕は見つめた。
いつもなら、あのソファーには雪とシロが居て、僕はそれを眺めているはずだった。
なのになぜ、今は僕独りきりなのだろうか…?
そして気付く。
……僕は初めから、独りきりではなかっただろうか?
あの日雪に出逢って、初めて独りきりではなくなっただけで、もとは独りだったじゃないか?
そうだ…。
これはもとの生活に戻っただけ。
ただ独りで、仕事に追われているだけの日々だったはずだ。
雪も、シロも、自分の見ていた幻だったのかもしれない。
寂しさで作り出した、現実には存在しないものなのかもしれない…。
「雪…」
なら、こんな感情も、やはり幻なのか…。
恋しくて、愛おしくて…。
側に居て欲しいと願う気持ちは、ただの幻想なのだろうか…。
切なさと苦しさと、独りきりの自分に涙を流す。
今まで独りきりだった。
けれど、雪が居なくなったことで、真実に独りきりになってしまった。
時間が流れていく中で、僕の中での時間は止まってしまっていた。
雪を失ってしまった日から、ただ同じ毎日を繰り返すだけになった。
仕事に行くとき、仕事から帰るときに、街中で雪にそっくりな人間を見つけてはこの胸が痛んだ。
もう会えないとわかっているのに、もう一度奇跡が起きないかと願っている。
何とも女々しい自分に、目眩さえした。
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