1人が本棚に入れています
本棚に追加
もう二度とは帰って来ないあの日々を、僕はただ無感情に思い出す。
雪が居なくなった後に訪れたクリスマスは、やはり奇跡を起こしてはくれなかった。
ならいっそのこと、彼女を忘れてしまえば楽になるのだろうか…?
全てをなかったことにすれば、きっと楽になれる気がする。
ただただ、抜け殻のように過ごす日々。
街は霞んで見えて、灰色の空を一層暗くさせた。
何がいけなかったんだろう?
そんなことを考えてもただむなしいだけで、彼女を取り戻す方法も見つけられない。
無情に過ぎ行く時間が、何事もなかったかのように過ぎる時間が、僕の中で彼女を幻にさせる。
君の居ない世界は、こんなに濁っていて、こんなにも息苦しかっただろうか?
彼女と一緒に夕飯の食材を買いに行ったスーパーや並木道を、ただ呆然と眺める。
楽しかった日々が酷く遠く感じて、自分の部屋がやけに広く感じた。
願うのも祈るのももう疲れたから…。
君を失った心は、氷のように冷えてしまったから。
きっと二度と人を愛せない。
だから…もういい。
さようなら、愛しい君。
さよなら、大好きだった雪。
―*―*―
時は過ぎ、僕はあの日から二度目のクリスマスイブを迎えた。
相変わらず仕事に追われる日々と、変わらない毎日を過ごしていた。
いまだに、ふとしたことで彼女のことを思い出すが、苦しかった胸の痛みは、時が少しずつ癒してくれた。
それでもやっぱり、まだ誰かを愛すことは出来ずにいるけれど、君は幸せになっていてくれてるのだろうか?
こんなに時間が経って、ようやく心から君の幸せを祈れるようになったんだ。
一時期は恨んだりしたけれど、霞んで見えた街も、今なら少しだけ色づいて見えるから。
「はぁ…」
吐き出した息が空へと上っていくのを見上げ、僕は弱々しく微笑んだ。
この空の下のどこかに、君は居るのだろう。
笑っていてくれていることを願う。
いつかチラリとでも良い、君の笑っている姿を、遠くからでも見られたらいい……。
最初のコメントを投稿しよう!