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日溜まりの中で
クリスマスは、奇跡を起こしてくれた。
雪が、僕のもとへと帰ってきてくれた。
「雪…雪……っ」
今目の前に居る雪を、僕はこれでもかと言うほど強く抱きしめた。
そのひょうしに、傘が落ちてしまったけれど、そんなことはどうでも良かった。
雪が帰ってきたんだ。
僕の側に、もう一度…。
ただ、それだけで、世界はまた、色鮮やかに輝き始めた。
「雪、雪…」
雪も僕を抱きしめた。
そうして気付く。
雪の震える手から、彼女が僕と同じ気持ちだったと言うことを…。
なら、もう何にも要らない。
彼女さえ、雪さえ側に居てくれれば。
僕らはそれ以上は言葉もなく、ただ抱き合って涙を流していた。
色鮮やかな日々は再び始まり、僕らはもう一度幸せな毎日を過ごす。
雪は孤児院育ちで、成人したあの日に、僕と出会った。
雪の親は、あまりに若くして雪を産んでしまい、雪を育てられずに孤児院に預けてしまったのだった。
幼かった雪は母親の顔を知らずに育ったという。
そして、何も言わずに出て行ったあの日に。
いつものように買いものに出掛けた雪に、孤児院で世話になった人から母親である人が病気であり、時間が残り少ないと言うことを聞いたという。
居てもたっても居られなくなった雪は、事情もろくな話せずに母親のもとへ去ってしまった。
そして今年の秋に、雪の母親はこの世を去ってしまったのだという。
初めて聞かされた雪の全てを、僕は一言も漏らさずに聞いた。
雪の優しさや笑顔は、どうして出来たのだろう?
こんなに辛い目にあって、どうして笑えたのだろう?
切なさに胸が熱くなる。
気付けば自分が涙を流していることに驚く。
雪も心配したように眉を寄せた。
きっと雪だから出来たんだ。
自分より、他人の幸せを願うことの出来る雪だからこそ。
あんなにも美しい世界を見つけられる雪だからこそ、母親を憎みもせずに会いに行けた。
その最後を看取ろうと、寄り添えた。
そんな君の全てが僕は愛しい。
だから、僕だけは例え何があろうと君を抱きしめ続けると誓ったんだ…。
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