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「ハッ、ハッ…」
初夏の少し強い日差しを浴びながら青々と茂る木々の下を走り抜ける。
腕時計の針は8時30分過ぎを指していた。
────遅刻だっ…!!
緩い坂道を下ると道が左右に広がる。
道路の向かい側、左にはバス停があり、彼、伊東雛基と同じ制服を着た学生たちが並んでいる。
さらに左の方には、学校へは比較的近道ではあるが、山道を通らなければならない道が続いており、数人の学生がそちらの道へ歩いて行っている。
右は、町を通って学校まで行けるが、左の道に比べると些か遠い。
雛基は数秒その場で足を止めたが、数秒後には左へ足を踏み出す。
どうやら、近道の方を行くらしい。
踏み出す足は次第に早くなり、前を歩いていた学生を追い越しながら走る。
階段の手前で先に出ていた弟、伊東俊樹と一緒になった。
自分たちの前を歩く学生はいない。
二人して無言のまま少し長めの階段を登りきった。
辺りを見渡すと、雛基はポケットから携帯電話を出して写真を撮り始めた。
やがて満足したのか、携帯電話をポケットに戻し、ふと階段の方を振り向いた。
────あれ…?
道の真ん中に狸の置き物がある。
「なぁ、俊樹…あれ、何?」
よくこっちの道を通っているらしい弟に、尋ねた。
すると、チラとこちらを一度だけ見ると、気のなさそうな声で返事が帰ってくる。
「んー、あぁ。ほっときな。」
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