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弟の笑いも収まり、顔の赤みも引いてきた。
この薄暗い建物の中にいつになく和やかな空気が広がったのは言うまでもない。
実際、雛基は今の状況を完全に忘れていた。
「ふぅ…じゃあ、ここから出ようか。」
弟のその一言でやっとこの建物に閉じ込められていることを思い出す。
「出口がわかるのか?」
さっき散々歩いてきたがそれらしきものはどこにもなかった。
ずっと初めと同じような景色が続いていたからだ。それとも出口を見落としていたのだろうか?
「うん、わかるよ。」
どうやら本当にわかるらしい。
いつもあの道を通っているだけある。さすが弟だ。
「じゃあ出よう!」
「いやその前に…」
その言葉の続きは紡がれることなく、今まで弟だったものが溶けるように崩れていく…
グチュグチュと肉を掻き回すような気味の悪い音が建物に木霊して雛基の背筋を凍らせる。
「ヒッ…!と、俊樹っ!!?」
足元に広がる弟だった塊は彼を求めるかのようにじりじりと近付いている。
あと少しで靴先に触れそうになったとき、雛基はようやく足を動かし塊から逃げるように今までとは逆の方、つまりいま歩いてきた方へ駆け出した。
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