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…なき…雛基!
「…んぁ…?」
「雛基起きなさい、学校遅刻するわよ!」
「あ、うん…」
母親に叩き起こされた。誰かに起こされるのいうのは、寝覚めがいいものではない。
さっきまで嫌な夢を見ていたという記憶はあるのだが、その内容を思い出せない。
モヤモヤするが、時計を見るともう家を出ないと学校に遅刻する時間だった。
「うわ!もうこんな時間!?俊樹は?」
「先に出たわよ。」
「もう、起こしてくれればよかったのに…行ってきまーす」
家を出て、数十メートル先に緩い坂道がある。
「ハッ、ハッ…」
初夏の少し強い日差しを浴びながら青々と茂る木々の下を走り抜けた。
腕時計の針は8時30分過ぎを指している。
────遅刻だっ…!!
緩い坂道を下ると道が左右に広がる。 道路の向かい側、左にはバス停があり、雛基と同じ制服を着た学生たちが並んでいる。さらに左の方には、学校へは比較的近道ではあるが、山道を通らなければならない道が続いており、数人の学生がそちらの道へ歩いて行っている。右は、町を通って学校まで行けるが、左の道に比べると些か遠い。
雛基は数秒その場で足を止めたが、数秒後には左へ足を踏み出す。
どうやら、近道の方を行くらしい。
踏み出す足は次第に早くなり、前を歩いていた学生を追い越しながら走る。
階段の手前で先に出ていた弟、俊樹と一緒になった。自分たちの前を歩く学生はいない。
二人して無言のまま少し長めの階段を登りきった。 辺りを見渡すと、雛基はポケットから携帯電話を出して写真を撮り始めた。やがて満足したのか、携帯電話をポケットに戻し、ふと階段の方を振り向いた。
────あれ…?
道の真ん中に狸の置き物がある。
「なぁ、俊樹…あれ、何?」
よくこっちの道を通っているらしい弟に、尋ねた。するとチラとこちらを一度だけ見ると、笑ったような口調で返事が帰ってきた。
「二度同じ間違いはしないこと。」
end.
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