第三章 ショウはパンが好き

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カランコロンカランコロン・・・ プロヴァンス風の真っ白なテラスに上がって、母屋のドアを開けると、古びたウィンドウベルが鳴り響く仕掛けだ。 父親の履くサンダルの音が近づき、フロアにその姿が見えた。 「真衣子、なかなか来ないからパンが冷めちゃった・・・よ・・・?」 齢の割りには若々しいと評判の父親は、見知らぬ黒こげ男どもの襲来にひるみ、そのうちの一人にお姫様抱っこされている娘の姿に蒼白になった。 「な、な、な、なんですか!?あんたたちは、うちの娘に・・・!」 あたしが安心して涙を浮かべた瞬間、父親はまさかの行動を取った。 「お怪我をされてるんですか?」 あんた、娘どした?! 娘を軽くスルーして、肩に担ぎ上げられてぐったりしている男たちを心配しだしたようだ。 「申し訳ありません、大事な温室にお邪魔したら、このようなことに・・・。」 黒こげ男の中で一番マトモそうな男がそういうと、父親は驚愕の表情を浮かべた後、はっきりと「やっちまったー!」という文字を顔に表現しながら、深く頭を下げた。 「まさか、温室に行かれるとは・・・!温室のストーブの調子が悪くて、修理しようと思ってはいたのですが、資金調達が難しくて・・・。はっ、もしかして、ストーブが爆発などしましたか?」 ちがうの、お父さん!と言おうとしたら、お姫様だっこした男の胸板に、顔面をグイッと押し付けられ、口封じをさせられた。 「はい・・・爆発、しました・・・。傷が、痛くて・・・。」 小柄な黒こげ男の肩に担がれた男の一人が、死にそうな声でそう呟くと、父親はさらに動転したらしく、どうしましょう、どうしましょう、警察にだけは・・・と、とんでもないことを口走り始めた。 あたしは見逃さなかった。 苦しげに呟いたその男の表情。ずるがしこい狐のごとく、口の端があがっていたことを!
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