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「仲間に、医者がいますので、ベッドにさえ寝かせていただければ、自分たちで対処できます。」
あからさまに胸をなでおろした風情で、情けなさ極まれる我が父親は、どうぞどうぞと部屋に案内しようとし、改めて気づいたように私を見た。
「真衣子、お前、怪我は?」
「彼女、俺たちの仲間の火傷を冷やしてくれようと、ずぶぬれになってホースで水をかけてくれたんです。」
小柄の黒こげ男が遮るようにそう説明した。
父親はデキた娘に感謝の視線を送りながら、いそいそと木製ループ階段を昇り、母屋のホテル設備で一番大きい部屋である、3世代ファミリー用の客室に案内をした。
「・・・そろそろ降ろしてください。」
意を決してあたしがそう拗ねたようにお願いすると、男は軽々と、しかし驚くほど丁寧な動作で、あたしを床に降ろした。
そして、そのままじっとあたしを見つめている。
「・・・そんなに見つめなくても、あたし、何も言いません。っていうか、何をどう説明していいかわからないし、あなたの仲間の怪我がひどいのも確かだし。・・・でも、きちんとあなたたちが何者なのか説明してください!」
あたしの精一杯の譲歩の言葉だったのだけど、特に感銘を受けた気配もないまま、なおもあたしをじっと見つめ続けるその顔に、あたしはなぜか頬を赤らめた。
「な、なんだってんですか、ジロジロと!」
「・・・いやぁ、俺、初めて女を触ったからさ。」
はぁっ?!
さ、触ったとか!?
顔を真っ赤にして口をパクパクするあたしに、性悪げにニヤリと笑みを浮かべた失礼なヤツは、さらに口を開いた。
「なんか、すっげぇいい気分。なんだこれ。」
そのまま、ずぶぬれのあたしを無視して、うきうきとした足取りで、仲間どもの後を追って、階段を昇って行った。
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