1人が本棚に入れています
本棚に追加
「はい、住所、名前。」
通学用のリュックからノートを出すと、ボールペンを手にした。
そしたら、この鈍感男子、ただでさえ大きい目をくるくるさせて、あたしの筆記用具に見入っている。
「書いてくれるの?!マジで!?」
「喜ぶことか!」
突っ込みどころ満載なこの男子。
パンの籠を抱えたまま、あたしの対面の椅子にぴょこんと座り、キラキラした表情であたしの出方を待っている。
「まず、名前。」
「名前、カスタム名?」
「は?カスタム名じゃないよ、なんだそれ!名前ったらな・ま・え!」
「みんなが呼ぶヤツ?」
たのむよほんと、名前聞くだけでこの禅問答か!
「あんたを何て呼べばいいの?」
「・・・ショウ!」
「翔?飛翔の翔かな。・・・苗字は?」
あたしがノートに「翔」とメモした瞬間、落ち着きのない「ショウ」という男子は、また勢い良く立ち上がると、私の真横に並ぶや否や、ノートをひったくった!
「・・・なんだ、これ。」
「なによ、今ショウって言ったでしょ?ショウって言ったら、今はその字が主流じゃない?」
「・・・これ、俺のこと?」
「知らないわよ!あんたの漢字、教えなさいよ。」
「いや、いい。これがいい。ちょっとロクに見せてくる!」
そのまま翔(仮名)は、あたしのノートとあたしのパンの入った籠を抱えて、「ロクー!」と叫びながらキッチンを飛び出していった。
翔の背中を見送りながら、パンはおろか今日学校で使う予定のノートまで奪われてしまったあたしは、今日学校行く気力を完全に失ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!