第三章 ショウはパンが好き

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「はい、住所、名前。」 通学用のリュックからノートを出すと、ボールペンを手にした。 そしたら、この鈍感男子、ただでさえ大きい目をくるくるさせて、あたしの筆記用具に見入っている。 「書いてくれるの?!マジで!?」 「喜ぶことか!」 突っ込みどころ満載なこの男子。 パンの籠を抱えたまま、あたしの対面の椅子にぴょこんと座り、キラキラした表情であたしの出方を待っている。 「まず、名前。」 「名前、カスタム名?」 「は?カスタム名じゃないよ、なんだそれ!名前ったらな・ま・え!」 「みんなが呼ぶヤツ?」 たのむよほんと、名前聞くだけでこの禅問答か! 「あんたを何て呼べばいいの?」 「・・・ショウ!」 「翔?飛翔の翔かな。・・・苗字は?」 あたしがノートに「翔」とメモした瞬間、落ち着きのない「ショウ」という男子は、また勢い良く立ち上がると、私の真横に並ぶや否や、ノートをひったくった! 「・・・なんだ、これ。」 「なによ、今ショウって言ったでしょ?ショウって言ったら、今はその字が主流じゃない?」 「・・・これ、俺のこと?」 「知らないわよ!あんたの漢字、教えなさいよ。」 「いや、いい。これがいい。ちょっとロクに見せてくる!」 そのまま翔(仮名)は、あたしのノートとあたしのパンの入った籠を抱えて、「ロクー!」と叫びながらキッチンを飛び出していった。 翔の背中を見送りながら、パンはおろか今日学校で使う予定のノートまで奪われてしまったあたしは、今日学校行く気力を完全に失ったのだった。
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