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トウヤは、懐かしい夢の中にいた。
まるで絵本の中の世界にいるような、広大で自然美に満ち溢れたそのパレスに立ち入ると、トウヤはいつもよりも深く呼吸ができる気がした。
この「聖女の庭園」の周囲には、外部の人間の侵入を阻むシステムが縦横無尽に張り巡らされているが、彼の唯一の協力者であり、最愛の人にかしずくあのドロイドの性能の前には、ちゃちなレース程度の威力でしかない。
「聖女の庭園」に彼が手はずどおりに近づけば、主を迎えるかのごとく、そのシステムは彼一人分を通す空間だけトロリと瓦解し、彼が侵入した後は、静謐な水面のような防御システムへと再び組みあがるのだ。
一秒すらも惜しむような素早く軽やかな足取りで、トウヤは目的のパレスの窓の前に立ち、一瞬だけあたりを警戒した後、その窓の内側にしやなかな体を滑り込ませた。
足音も立てず、まんまと部屋に侵入した途端、トウヤの心は歓喜に満ち溢れた。
日ごろは超然としていると称される表情が崩れ、こぼれるような微笑を浮かべた。
「・・・マーイコ。」
そう低く甘い声をかけると同時に、作業台に精油を並べていた恋人の細い背中を、背後からぎゅっと抱きしめた。
マイコは驚きのあまり両肩を跳ね上げ、トウヤの腕の中から彼の顔を振り仰いだ。
「トウヤ・・・?!まさか・・・」
目を丸くし、まるで幽霊でも見るかのごとく恐怖の念すら浮かべようとしているマイコの唇を、トウヤは優しく盗んだ。
最愛の人のくちびるをついばみながら、「マイコ」と何度も呼びかけるトウヤを、マイコはようやく押しのける。
「もう、いい加減にして!この前で最後だと言ったじゃない、どうして・・・!」
「会いたかったから。」
マイコに押しやられるまま、背後に数歩よろけ、トウヤはそう呟いた。
「トウヤ・・・。」
「会いたかったから、さ。」
泣き笑いのような表情で、トウヤはそう言うと、長い腕を伸ばし、指先でマイコの柔らかな髪をひと房掬い上げた。
「マイコ、早く俺のこと、嫌いになれよ。」
マイコは一瞬、はじかれたように目を見開いた。
「・・・『聖女』に、思想なんかないわ。あなたのことも、どうでもいいもの。」
彼女に手を伸ばし、近づこうとするトウヤに対し、マイコは身を硬くして拒む。
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