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トウヤは手から零れ落ちた彼女の髪の束を見送りながら、彼女の瞳の中を見ようとした。
「どうでもいい、じゃ足りない。嫌いになれよ。その綺麗な瞳に映ることすらおぞましいくらい。」
「嫌いよ。自分のことしか頭になくて、人妻の家にこうして毎晩侵入して、好き勝手働いて・・・。」
「嫌いになれよ。君のセブン・ダイに命令して、俺を殺してよ。」
そのあまりにも自分勝手で幼稚な言葉に、本来勝気な彼女は怒りに震える顔で、隣室に必ず控えているはずの彼女のドロイドに命令を下した。
「ダイ!この忌々しい男を、今すぐ焼き殺して!灰も残らないくらい!」
ところが、彼女に最も忠実な友でもあるはずのセブン・ダイからの返答はない。
「・・・ダイ?何してるの、早く来なさい!」
「聖女マイコ様、楽しげな声が窓の外にまで漏れておりましたよ。」
「キャッ!」
つい先ほど、トウヤが侵入してきた窓から、ひょっこり顔をのぞかせてダイがそう返答したので、マイコは可愛らしい悲鳴をあげてしまった。
背中まで伸びるまっすぐな黒髪をなびかせ、重力を感じさせない軽い身のこなしで窓枠を飛び越えると、着地の際にすこしだけ乱れた漆黒のロングドレスの裾を直した後、マイコに一礼した。
「な、なんで外にいるのよ?」
「それは、トウヤ様が花壇や芝生を踏み荒らしながら、侵入経路をはっきりと残しつつこの窓に向かってまっすぐ並んだ足跡を、しっかりと隠匿してきたからです。」
この世にあまたいるドロイドの中で、このセブン・ダイほど人間くさい柔らかな微笑みを浮かべることができるドロイドは他にはいない。
「ナイス!」
と、毎度のダイの気配りに、トウヤが親指を上げると、ダイも笑顔を浮かべたまま親指を上げて応じ、
「いい加減、ご自分でなさってくださいね。」
と、しっかり注意を促した。
「ちょっと、ダイ!あなた、私のドロイドのくせに、なんでトウヤの味方ばかりするのよ!?」
ダイにくってかかるマイコに、ダイは物柔らかく中性的な声音で答えた。
「私は、マイコ様のドロイドです。嘘偽りなく、マイコ様の願いを叶えるためだけに存在する物ですよ。」
マイコはしばらく唖然とした後、頬を真っ赤に染めた。
「マイコ様の心の波動は、私を動かすためのリズムとして、今この瞬間もしっかり受信できております。」
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