第一章 胡蝶蘭と6人の黒こげ男

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昨夜からしとしとと降り続く雨は、鬱蒼と茂った果樹園エリアの木々たちにとっては、格好のご褒美だったようで・・・。 お気に入りのスカイブルーと星マークの傘を差して、木々の間を歩くと、葉っぱの中から葉緑素がふんわりと立ち上っているような、それはそれは芳醇な香りがするのです・・・。 西日本は台風でお困りのようですが、私の住む田舎都市は小雨模様のまま、明日の晴天を迎えられそう。 いつもどおり、代わり映えのない平和な毎日だけど、この人気のない冴えないハーブ庭園はいつまで営業できるのでしょうか。 真衣子は、家業のハーブ園で、雨に濡れた植物たちや小動物の世話や清掃をしながら、登校時間まで過ごすことが日課だ。 湖から道を一本隔てた麻衣子のハーブ園は、ガイドブックにもたびたび登場するほどの老舗なのだが、毎年のことながら、この梅雨の時期の客足の無さには泣けるものがある。 「傘を差しながらハーブの香りを楽しんでこそ、植物園の真の楽しみ方じゃない?」 相談相手のやぎは、雨を嫌がり小屋の中。 「あんたねぇ、あたしが雨に濡れながらあんたのフンの掃除してるのに、何であんたが屋根の下でウトウトしてるのよ。」 こんにゃろ!っとヤギに説教してやろうと思ったとき、頭上に設置されている園内スピーカーがジジッと音を上げると、聴きなれた父親の声が流れた。 『真衣子、パンが焼けたから、エントランスで新聞取ってから戻っておいでー!』 「・・・園内スピーカーで家族への連絡をするな。」 とはいえ、真衣子の好物である焼きたてパンが冷める前には、リビングにたどり着きたいところ。 園長である父親のナイスアシストで、説教を回避することに成功したヤギは、真衣子の用意したエサをご機嫌で食べている。 「学校から帰ってきたら、あんた覚えときなさいよ。」 そう捨て台詞を残すと、小動物コーナーから果樹園を抜けて、温室の横を通り過ぎようとしたとき、温室の中から、何か大きなものが落ちるような音が聞こえた。
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