波長

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 精神病院に一人の科学者が入院させられた。彼は世間で言うところの天才に属する者であったが、その独特の知性に性格故に異端者扱いされていた。それでも、学会の一部の派閥は彼の才能を高く買っていた。外国に引き抜きでもされたら大変なことになる。  彼が外国に行かないよう、彼を精神病の患者という形にして病院に軟禁しておくしかなかった。彼の病室は、他の患者とは違い、実験機材など様々なモノが用意されていた。軟禁され、出掛けることもできない彼は不満そうに狭い病室で研究に勤しむ他なかった。  ところが、彼が入院しだした時期から、病院内に不穏な空気が流れた。患者や看護士、医者の中で精神に異常をきたす者が現れ始めたのだ。元々、入院していた患者は、症状が悪化して暴れ出す者もいた。初めは、様々な合併症が疑われたが、症状が従事者の方にも現れたとなると、ただ事ではない。幻覚を打ち消す薬など、様々な症状改善策を講じるも効果はなかった。重度になると、従事者の方が患者として入院しなくてはならないとは、何とも笑い話でしかない。  いったい、何がどうなっているのか。誰にも分からなかった。芽生える新しい思想に、世界観。自分達が今まで見てきたモノを否定するような異常事態に戦々恐々であった。  そんな中、一人だけ無事な人間がいた。軟禁目的で入院させられていた例の科学者だった。彼だけは問題なく普通に生活していた。  誰もが思った。もしかしたら、彼はいち早く、この異常事態を察して防ぐ手立てを考えたのではないのかと。
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