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春が過ぎ、入道雲がモクモクと天を突き上げる。
僕らの不思議な蜜月関係は移ろいやすい天気のように終わりを告げようとしていた。
僕は今まで以上に常連となった牛丼屋で、午後のコーヒーなど飲んでいた。
自営業の僕は比較的時間の都合がつく。客のいない午後3時という時間帯に優雅なティータイムなど取れるのだ。
牛丼屋でティータイムもないだろうが、目的はもちろんちっちゃいおじさんに会うことだ。それと…
黒い不吉な雲に稲妻がピカピカと混じるようになった。
「ねえ。今度の休みにどっか行かない?」
すっかり心やすくなったメガネさんが空いたお盆を下げながら聞いてくる。
え?ちっちゃいおじさんはテーブル席でいつもの体育座りで客の動きを注視している。
「うん。そうだなあ。じゃあ、ちっちゃいおじさんと一緒に…」
メガネさんが僕の前を通過するのを見計らって僕は答えた。
「ちっちゃいおじさんの話もいいけど、あなたの話が聞きたいな。」
心臓がドクンと打ち、脈が早くなったのがわかった。
ゴロゴロ…堪えていた稲妻がついに音を立て落ちてきた。
ピカッと店内が一瞬明るくなり、おじさんの横顔に、複雑な陰影を作った。
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