キッカケ

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応じながらともるの中にある遠見という人の記憶を手繰り寄せる。 実は、「こちらを見てた人」というキーワードで合点がいったくらいで、営業の人達の顔と名前はほとんどが合致しない。 部署内でも何故か顔立ちのいい者ばかりで構成されており、平均年齢も三十代後半と若い営業課。 この前、龍之川さんというひどく風流なお名前にピッタリの青年に、知った顔で話しかけたら、田中さんだった事があった。本物の龍之川さんは洋風な容貌で、田中さんの隣の席の人だった。笑われ、顔から火をふく思いをしたものだ。 皆をまとめるリーダーは佐々木チーフと呼ばれている。41歳の現役バリバリで、大きい仕事を取って来るらしい。 傍目には三十代にしか見えない佐々木さんはともるの、少し気になる存在だったりする。 仕事は手抜かりなくやるタイプだし、部下のミスを叱責する事もあるが知らんぷりはしない。残業は一人で残っているのをよく見かけるし、気配りやさりげない気遣いもできる。 いかん、いかん。自分の好みじゃなかった。 遠見幸翔は確かに、皆が口を揃えて言うようにかっこいい男性だ。傍から見ると、仕事はキッチリこなすからミスも少ない。ただ、一人で片付けてしまうから尋ねる事も少なく、人付き合いは悪いようだった。 その彼がこの所、秘書の橘さんを見つめてるものだから女子社員の間では波紋をよんでいた。 無論、いつでもゴーイングマイウェイの多恵は知る由もない、知ってても聞き流す、彼女はそういう女だ。 そういえば、ともるは幸翔と一度、目があってしまって頷きながら微笑んだらバツが悪そうに背中を向けられた事があった。 兎にも角にも他の女性に思いを寄せる男性には興味がないのだ。それよりも佐々木さんは誰かいい女性(ひと)居るのかしら?と思う。 「…じゃあ、一番、息止めるのが短かった人が罰ゲームね、用意…」 「えっ?!えー、」 「スタートッ!!」 横に並んでた三人が一斉に潜るから自分も後に続く。 しかし、何の心の準備もないまま水に潜ったので水が気管に入り、豪快に噎せた。 がはっがはっ!ごほごほごほっ、こほこほ…こふっ シーンと静まり帰った湯の中では未だ浮いてこない頭がみっつ。 ゲーム優先かい。 少し寂しくなってきたところで、多恵がぜぇぜぇいいながら上がってきてともるの肩を叩く。
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