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『――死なないで』
出発前、エリスは僕にそれだけ告げた。
複雑な表情をしていた。なにか、言えないような、酷く疲れたような表情だった。
それを、思い出した。
決して走馬灯ではない。なぜなら僕は、ここでは死ねない。
歯を食いしばってみた。拳を握り締めてみた。
徐々に視界がクリアになっていく。
・・・いける。まだ走れる。僕はそこで、最初に降った階段に差し掛かる。
「うわああああああああああああああ」
最後は広間に飛び出した。
着地に失敗して、床にゴロゴロと転がった。
息が荒い。虫の息のようになっていた。
「でも・・・・・・生きてる」
視線だけで振り返ると、飛び出てきた穴は完全に塞がってしまっていた。
広間が崩れる気配はない。
僕はそこでようやく、ホッと息をつくことができた。
静かな広間。静寂に満たされて、荒い息も徐々に落ち着きを取り戻していく。
終わらせることができたのだ。これで帰ることができる。
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