3.乖離(かいり)

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『――死なないで』 出発前、エリスは僕にそれだけ告げた。 複雑な表情をしていた。なにか、言えないような、酷く疲れたような表情だった。 それを、思い出した。 決して走馬灯ではない。なぜなら僕は、ここでは死ねない。 歯を食いしばってみた。拳を握り締めてみた。 徐々に視界がクリアになっていく。 ・・・いける。まだ走れる。僕はそこで、最初に降った階段に差し掛かる。 「うわああああああああああああああ」 最後は広間に飛び出した。 着地に失敗して、床にゴロゴロと転がった。 息が荒い。虫の息のようになっていた。 「でも・・・・・・生きてる」 視線だけで振り返ると、飛び出てきた穴は完全に塞がってしまっていた。 広間が崩れる気配はない。 僕はそこでようやく、ホッと息をつくことができた。 静かな広間。静寂に満たされて、荒い息も徐々に落ち着きを取り戻していく。 終わらせることができたのだ。これで帰ることができる。
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