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「何で公彦が、そんな目に遭わなければいけないのでしょうか?」
そう言って嗚咽する声に、我に帰った。
「公彦君がそんな目に会っている事に、気付きもしないで申し訳ありませんでした。
何とかまた、公彦君が元気に登校出来る様に致しますので、ご安心下さい」
「お願い致します」
ハンカチで目元を押さえながら、深々と頭を下げる母親の姿を見ながら、自分の不甲斐無さを恥ずかしくも、情けなくも思った。
公彦が今、どんな想いでいるのかを思うと、例えようの無い息苦しさを感じた。
彼の様子は気になってはいたが、何故だかそれを知る事が怖くてなかなか聞き出せなかった。
校門で母親を見送る時に、やっとの思いで母親に尋ねた。
「公彦君の様子は如何ですか?」
「毎日、楽しそうに妹と遊んではいますが、あまり自分の感情を表に出さない子ですから心の内は判りません。
時々、凄く寂しそうな顔をしていますから……」
公彦の母親の後ろ姿を見送りながら、頭の中では、どう行動を起こすべきかを考えていた。
しかし、自分のクラスでいじめが起きるなんて想像もしていなかったし、
『誰が?』
という言葉が何度も繰り返されるばかりで、納得のいく結論や方法は見つからなかった。
帰宅して、落ち着いて考えてみても同じだった。とにかく、子供達に伝える所から始めようと思って眠りに就いたのは、明け方だった。
翌朝、授業の前に、手にあの青い筆箱を掲げながら、子供達に尋ねた。
「この筆箱を見て、何か俺に話があるという者は、いつでも良いから来てくれ。ずっと待っているから」
「筆箱を見て話って、どういう事だ?」
隆人が誰かに尋ねるというより、独り言の様に呟いた。その言い方に惚けている感じは無かった。
「アキラ先生、落し物ですか?」
健太が尋ねた。
「具体的な事は又話をする。とにかく何か心当たりのある者は、俺と話をしてくれ」
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