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「はい」男の子の一人が手を上げた。
「はい、健ちゃん、いや健太君どうぞ」
幸太郎に指されて、健太が立ち上がった。
「僕は、裁判が良いと思います。いじめた人を被告にして、そのいじめ具合によって罰を決めるんです。例えば、掃除当番を増やすとか、給食のおかわり一週間禁止とか」
副委員長で書記も務める典子が、黒板に書かれた『①当番制』の隣に『②裁判制度』と書き足した。
「えーっ、おかわり禁止はひでえよ」
隆人が声を上げると、誰かが時代劇のセリフを真似して言った。
「お代官様、それだけはご勘弁を」
教室に一瞬、笑いが起きたが、その笑いを制するように順子が立ち上がった。
「それじゃ駄目です。それじゃあ、いじめられている人の気持ちが解りません。それに、誰が訴えを起こすんですか?」
順子は健太を睨むように見つめながら言った。座ろうとしない。
「いじめられた人が言えばいいじゃん。あとは周りで気が付いた人が言えば」
健太は座ったまま反論した。
「周りの人が気付いてくれなかったら、どうするんですか?そうしたら、いじめられっ放しになってしまうと思います」
順子はそう言うと、やっと席に着いたが、まだ健太を睨んでいる。
「はい」
「はい、原口さんどうぞ」
原口智美は、クラスで一番背が低い。立ち上がっていても、椅子に座っている隆人よりずっと低い。
「私も裁判には反対です。だって、この前もニュースで言っていました。いじめは周りの人が誰も気が付かない事が、一番の問題だって」
「じゃあやっぱり、俺のは全然、いじめじゃないな。だって俺がみんなにちょっかい出してるのは、みんな知ってるもんな」
隆人が又、口を挿んだ。
「あのう、意見では無いかも知れないんですけど良いですか?」
昌美という女の子が、胸の前で小さく手を上げて、幸太郎に尋ねている。
「どうぞ」
昌美は立ち上がると、椅子を丁寧に机の下に戻してから、少し恥ずかしそうに話し始めた。
「あのう、私が気付いていないだけかもしれないんですけど、『いじめを無くす為には』という事は、今このクラスに、いじめはあるのですか?
もし無いのなら、私は当番も裁判も嫌です。私が気付いていないだけだったら、ごめんなさい。
でも、もう本村君も転校してしまったし……。どうなんですか?」
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