アキラ先生

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『本村』という言葉に、五十嵐先生が反応した。    今まで教室の一番後ろで椅子に座って、みんなの遣り取りを聞いていた。    五十嵐先生はいつもそうだ。学級会では殆ど口を出さない。黙って聞いている事が多い。    みんなから意見を求められた時か、みんなが困ってしまって、話が進まなくなってしまった時にだけ口を出す。    その日は、学級会の始まりに 「今日はみんなにとって、とても大事な事についての話し合いだと思う。たくさん意見を出し合って、とことん話し合って欲しい。  話し合いが途中で終わってしまうようなら、昼休みをはさんで、次の五時間目を潰してもらっても構わない。  みんなでじっくり考えてみてくれ」    そう言ってから椅子に座ると、腕を組んでずっと目を閉じていたのだが、昌美の発言の中に出て来た『本村』という生徒の名前を耳にした瞬間に目を開いた。  椅子から立ち上がり窓際に立ち、大きく深呼吸をしながら、腕を組み、またそっと目を閉じた。    五十嵐先生は、普段は明るく陽気な性格で、歳も若いせいか、みんなから『アキラ先生』と呼ばれている。    先生というより、お兄さん的な存在で、子供たちからも親しまれている。    そんな先生が、その日はいつもと少し違っていた。いつに無く真面目な顔をしていた。    勿論、怒っている訳では無い。何か考え事をしているようだった。    実際、アキラ先生は、生徒達の意見や、その遣り取りをちゃんと聞きながら二人の生徒の事を考えていた。    いじめ当番を提案した『立石順子』と、夏休みの間に転校して行った『本村公彦』の事だ。
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