あの日

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夏は好きな方である。 そもそも俺は寒いのが嫌いだから、寒いよりは暑い方がまだマシだという位の理由だが。 だから、暑いのが好きというわけではない。むしろ肌はベタつくし、汗が滴るのも鬱陶しいから、気温が高い日は出来るだけ何もせずにボーッと過ごしていたい。 しかし、夏特有の行事や食べ物なんかは好きだ。夏祭りは毎年欠かさず行っているし、花火なんかも風情があっていいと思う。かき氷やスイカも美味しい時期だ。 そんな訳で、夏は好きな方である。曖昧な言い方になるのは、 つまりそういうことなのだ 。 「あー...っ、暑い.......」 今日も今日とて気温が高い。 冬生まれのためか暑さにめっぽう弱い俺は、朝から教室の自分の席でだれていた。 暑い.......暑すぎる...! また厄介なのが、教室に冷房器具が無いことだ。まさか中学よりも設備がランクダウンするとは思っても見なかった。俺が暑さに弱いのは、中学の頃、ずっと冷房の効いた教室に居たせいもあるのだろう。 しかし、それにしても今日のこの暑さは異常である。とても何かをしようとは思えない。恐ろしい程に元気なクラスメイトを見ていると、そう思っているのは俺だけかとつい錯覚してしましそうだが、今日の天気予報によると 最高気温は36℃ つまり、元気でいられる皆がおかしいのである。 これはあくまでも持論だが、馬鹿ほど暑さを感じにくい傾向にあるのだ。かといって俺の頭が良いという訳ではなく、ただ単に、こんな猛暑のなか騒いでいられる人たちが、馬鹿にしか見えないという話だ。余計な汗ほど面倒なものは無いというのに。 俺は机にべったりとくっつけていた頬を持ち上げて、クラスをぐるりと見渡した。 どこにも視線を定めないまま、しばらくぼんやりしていると 「おーい、お前生きてる?」 正面から、急に声がかかった。 「......ん...おう」 「いや生きてねぇだろ」 友達の岡 秋汰(おか しゅうた)だ。俺よりも随分と身長が高いこいつは、かなり見下ろす形で俺のことを見ると苦笑した。 「大丈夫かよ」 「こんなに暑くて生きてる方がおかしいだろ....」 「そこまで躍起ねぇのもお前くらいだぞ」 秋汰は手にしていた教科書で俺の頭を軽くはたいた。そんなこと言われても、暑いものは暑いのだから仕方がない。さっきから、何もしていないのに出てくる汗を少し腹立たしく思いながらも、俺はダルそうに立ち上がった。 「......一時間目、どこ?」
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