あの日

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最早先生の声すらもシャットダウンした俺の耳に飛び込んで来られるのは、うるさい蝉の鳴き声だけだ。いつものように教科書で枕をつくり、一番しっくりくる場所を探して顔を伏せる。暑くて寝苦しいのはもちろんのことであるが、そんなものは勉強していようが寝ていようが同じである。それなら寝ていた方がまだマシというものだ。ダメ人間過ぎる思考だとは分かっているが、それにしたってノートの内容が分からなさすぎた。自力でどうにかなるような問題ではないだろう。 「あーあ.......頭良くなりてぇな」 顔を伏せたまま呟いたこの言葉は本心だ。 中学の頃は割りと勉強が出来る生徒ではあった。特にこれといった勉強はしていなかったが、しかしそれでもそこそこの点数を取っていた。 ......まぁクーラー効いてたし、授業をちゃんと受けようっていう気持ちがあったんだろうな。 ふとあの頃の涼しさを思い出して虚しくなる。 ...............そう言えば。 俺はバッと顔を上げて秋汰を見た。 こいつは小学校の頃からずっと頭が良い。 流石に小学校で意識はしていなかったが、中学に入って受験が絡みだしたとき、秋汰のテストの点数にとても驚いたのを覚えている。まずクラス内では間違いなくトップを争っていただろう。中学ではテストの順位が発表されないから、詳しいところは分からないが、それくらいの点数は取っていたハズだ。少なくとも俺よりは確実に上にいた。 「......なんですか」 しばらく顔を見ていたせいで、秋汰は訝げに俺の方を向いた。 「いやぁー?......お前って何でそんなに頭いいのかなってちょっと」 「はぁ?別に普通だろーが」 はい出ました頭良い人に限って自覚症状がない的なアレ。これって本当何なんだろうな、馬鹿にしてるんじゃなかったら何なんだろうな。謙遜でもない気がするしな。やっぱ馬鹿にしてんのかな。 「普通じゃねぇってその学力は......」 今だって学年トップ10からは絶対に外れないのだから、これが普通だったら俺マジで発狂する。 どちらかと言えば俺の方が普通だ。....いや、どちらかと言えばの話だから。ちゃんと自分が馬鹿だって分かってるから。 すると、秋汰はどうでもよさげにフォローらしきものを入れてくれた。 「お前だって中学んときは頭良かっただろ」 「.......過去は振り返るもんじゃねぇんだよ.......それに秋汰より全然下だったからな」
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