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「僕は、他人を気遣う余裕はないけど…でも、そろそろむきわなきゃいけないことも…なんとなくわかってた」
「…」
「だから、やるよ。僕自身が、救われる為に。その為の努力なら…惜しまない」
姉さんは僕を護りたいんだ。だから僕も、それにこたえたい。
「…時雨」
「ならばさっそくだが、師を紹介する。私の考えうる限り最高の師であるがいいのだ」
「日暮さん…ありがとうございます。あの、姉さんとはどういう」
「ただの同僚だ。ただ、彼女の母親には恩義がある。彼女亡き後、キミ達姉弟の後見人をつとめる義務があるがいいのだ」
「…」
姉さんを見る。けだるそうに小さく頷いている。つまり両親亡き10年の間ずっと何不自由なく生活出来ていたのは、日暮さんが陰ながら面倒を見てくれていたからだと理解した。
「…あなたは、善人だったんですね」
「魔法使いは善悪のしがらみから解き放たれた畏怖なる存在。今までがどうあろうとこの世界、簡単に人を信じるものではない。肝にめいじるがいいのだ」
綺麗事を並べ立てる奴より、混沌の権化のような風体でも僕は、日暮さんを信用出来る人だと感じた。何がどうということはなく、直感でだ。
「わかりました。肝にめいじます」
日暮さんの言葉に僕は頷いた。
「で、師ってどなた?」
姉さんは新しいビールをあけながら日暮さんを見て問いかける。
「魁座全空殿だ」
ん?魁座…どこかで聴いた名だけれど…。
「魁座全空…あのハゲ老人か。魔法使い最強の奴を師にもてるたあありがてぇ限りじゃねーか。なあ?」
ニタニタしながら姉さんは僕に同意を求めてきた。
「最強な人なんだ…確かに間違いはないだろうけど」
そんなに凄いという人をハゲ老人だなどと口汚く罵れる姉さんの神経はどうなっているのだろうか。常識を疑う。
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