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異変はすぐに感知出来た。それは、まるで気付けと言わんばかりにあからさまだったからだ。
「姉さん…」
「無視しろ…“もどき”だ」
感知出来る魔力の量は桁違いだったが、その質はと言えば、姉さんの放つ魔力と同質か少し下くらいか…姉さんならともかく、僕にはどうすることも出来ない。
「姉さん…このまま」
「無視しろ」
姉さんは一貫して無視の姿勢を崩さない。しかし、それが追跡者の逆鱗に触れたらしい。
「姉さんっ!」
「っ!?」
後方から、小さな何かが殺意を纏わず、静かに姉さんを貫いた。目を見開いて胸にあいた穴を見下ろしてそして、膝をついた。
「姉さん!?」
「そりゃ避けられんわなあ?魔力垂れ流しにしとるような間抜けは、魔力と殺意をこめて攻撃してくるから、それさえ感じとり対応すれば問題ないとか思ってたんちゃうの?お姉ちゃん…あまあまやわ」
「…あんたが」
胡散臭い関西弁だった。まるで狡猾な蛇。全身の毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出した。
「早く…逃げろ…ハゲん…とこに」
胸から溢れる血の量が凄まじい。それでも姉さんは、自分よりも僕に気を回している。
「姉さん…」
「にがさへんよ?佐藤時雨くん。ここでキミは死ぬんやからなあ」
足がふるえてうまく立てない。
「早く…っイケェェェッ!!」
「くっ」
姉さんが叫ぶが、駄目だ。足が動かない。
「怨みはあれへんけど、堪忍してや。ほな…」
「時雨!」
「畜生…っ」
「ばいなら」
その男の指先からレーザービームが放たれる。僕は、死んだはずだった。でも、僕が見たのは…。
「姉…さん?」
「…馬鹿野郎」
姉さんが僕に覆いかぶさり盾になっていた。姉さんの異能・“絶対障壁”が僕を護っていたんだ。
「どう…して」
「お姉ちゃん…だから」
口の端から血が流れ落ちる。
「姉さん?」
「…」
「姉…さん?」
「…」
姉さんの肩に軽く触れた。ゆっくりと、世界がスローモーションになった感覚に陥った。
そう。姉さんは、死んだ。
「姉さん…姉さんっ」
雨が降り始める。関西弁は今度こそ僕を殺すだろう。
「美しい、姉弟愛やね。弟を身を挺して護った姉。せやけど、無駄な努力や。俺が、キミを殺すからなあ」
再び指先を僕にむけてきた。
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