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「てめえだけは許さねぇ」
「は?」
自分でも驚く程に、声が据わっていた。今はただ、眼前のこの男が憎くて仕方なかった。
「叩き潰す。全部…てめえの幸運…搾り取ってやるよっ!!」
その時、関西弁の僕にむけられた手が弾きとんだ。
「ぐっ!?」
「すまぬ。私が迂濶であった」
これも関西弁に陥った不幸の1つだろうか。奴の背後には日暮さんがいた。爆発系の魔法使いなのか、その手のひらは少し焦げ付いていた。
「日暮さん…」
その姿を見て、僕は少しずつ正気に戻って行った。
「…チッ、あかん。日暮爆叉相手にしとるレベルは持ち合わせてへんわ。撤退、させてもらうで」
「逃がすか!」
僕が追おうとした瞬間に、奴は煙幕を放って姿を眩ませた。
次に視界が開けた時、もう奴はいなかった。
「聖…」
日暮さんが姉さんの亡骸の横に跪いている。
「姉さん…」
もう、姉さんが語り掛けてくることはなく、叱ってもくれない。そして、護ってもらうことも、導いてもくれないのだ。
「どう…してだよ…姉さん…僕を、置いていかないでよ…姉さんっ!うわああああああっ!!」
人目も憚らず、僕は泣いた。世界にもう、僕と同じ血が流れる人はいない。孤独だ。そうおもうと、ただただ怖かった。
「思い切り泣いておけ。姉の仇をとれるのは、キミだけなのだから」
日暮さんは僕に覚悟を持たせた。
「…決めました」
「…」
「僕は、奴を…あの関西弁野郎を、ぶち殺す為に…強くなります。もう、絶対に泣きません」
「そうか」
日暮さんは理解してくれた。家族はいないけれど、日暮さんがいる。僕は、1人じゃない。
「姉さん。僕は今日…あなたから、卒業します。今まで…ありがとうございましたっ!!!」
深々と頭をさげる。そして…。
「姉さんを、宜しくお願いします…日暮さん。遺骨は、母さん達と、同じ場所に…」
「行くんだな?」
「はい」
僕は姉さんに別れをすませた。もう後ろはむかない。次いつ奴がくるとも限らない。だから、早く強くなる必要がある。制御した上で、自在に使いこなすすべを、身に付けるのだ。
「そうか…行ってこい。後は任せろ」
「はい!」
そして僕は今日、大事な人を失い、平和な日常に別れを告げた。
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