1章 ~平凡×非凡~

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帰るのか、帰らないのか。 はっきりしないままグダグダと放課後の時間を教室で過ごすのは、案外楽しい。 たまたま部活動のない錦も、今日だけは休息モードに突入しているようだ。 先週県大会だったらしいしな、たまには休息も必要だろう。 毎日根詰めて生きるのなんて、誰だって苦しいに決まってる。 ふと、机上にありとあらゆる菓子類を広げる紫苑が、ポツリと漏らす。 「眠い」 「よし、帰るか」 「やーだー!帰らないー!」 俺の辛辣且つ切り替えの早い言葉に、紫苑は急に机に突っ伏して愚図り始めた。 今お前眠いって言っただろ、それなら帰って寝ろよ。 それでも帰りたくないと言うのには、きっと俺が放課後の時間を大切にしている理由と、全く同じ理由が根底にあるからに違いない。 心地いいのだ、この空間が。 一見非生産的な時間に見えるこの放課後も、俺たちにとっては青春の1ページとなる。 些細な幸せの1つとして、この時間もカウントされるのだ。 ……自分で言ってて、ちょっと引いた。 今の戯言は置いといて、俺たちはなんだかんだで、単にとりあえずこうだらだらしているのが好きなだけである。 「眠いって言ったのはお前だろ」 「だってぇ……暖かいからぁ」 眠たそうに目を擦る紫苑の発言にも、一理ある。 春の陽気に晒された教室の窓際ほど、人の眠気を誘う場所はないと思う。 かろうじて自宅のベッドが勝負出来るくらいだが、他には類を見ない快適さがここ(窓際)にはあるのだ。 しかし、授業中に睡眠を蓄えた俺にぬかりはない。 いくらここで陽気が振りかかり、眠気が脳内を支配しようとしたところで、俺に全くダメージはないのだ。 やはり授業中の睡眠は、必要不可欠である。
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