1章 ~平凡×非凡~

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「邦助(ほうすけ)」 名前を呼ばれて振り向けば、満面の笑みを浮かべた親友2人の姿があった。 今し方俺の名前を呼んだのは、片桐紫苑(かたぎり しあん)。 女みたいな珍しい名前で、本人もそう言われるのを嫌がっているのだが、皮肉なことに名前が外見に滲み出ている。 中性的な顔立ち且つ童顔で、体形もともすれば女に間違えられそうな程細い。 決定的なのは、声変わりを迎えたか怪しいほど高く幼い声で、それらが元となって『紫苑=男装少女』説が学年に広まりつつあるのだ。 性格も気弱且つ温和で、最近では積極的に動植物や幼い子どもを愛でているため、これはいよいよ完全なる女に近付いているのかもしれない。 先日聞いた話によると、「昨日ね、カップケーキ焼いたんだよぉ」とのことなので、やはりもう女になればいい気すらしてきた。 これほどまでに完璧な女子生徒がいたら、正直この学年の男の大半が骨抜きになってしまうだろう。 勿論、俺を含め、だ。 幸い今は親友という枠に収まっているが、いつ恋愛感情に発展してもおかしくはない。 ……申し訳ないが、これは嘘だからな。 単なるジョークであるというところを、理解してもらいたい。 「何してるの。帰ろうよ」 「あー、はいはい。ちょっと待ってろ」 机上の通学鞄を手に、紫苑の傍らへ歩み寄る。 そして、隣でぼんやりとつっ立っている男の頭を、軽くデコピンで弾いた。
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