1章 ~平凡×非凡~

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こいつの名前は、四重錦(しじゅう にしき)。 野球部の絶対的なエースピッチャーであるというだけでも尊敬出来るのに、その上顔良し・性格良し・成績良しと、全てを欲しいままにしている。 寡黙だが他人に優しく、自分には厳しく妥協を全く許さない姿は、俺には恐らく真似できないし真似しようとも思わない。 部活動にも勉強にも真摯に取り組む姿を見ながら、いつか倒れるんじゃないかと内心冷や冷やしているのは、ここだけの秘密だ。 そんな、世間一般で言われる“スーパースター”というやつを女子が放っておくはずもなく、毎日ラブレターやファンレターの嵐に見舞われ、大会の応援にも女子が殺到し、黄色い声援を上げているようだ。 先週、風の噂で聞いたのだが、とうとう非公式ファンクラブまで設立されたらしい。 一体何に対して非公式なんだよ、と思ったけれど口に出さなかった俺は偉い。 しかし、これだけ女子に人気があるのにもかかわらず、錦には一切浮いた噂がない。 例え学年1の美人に告白されても、例え後輩の可愛い子に告白されても、錦は決して誰にもなびかない。 何故ならば、こいつには既に愛する“嫁”たちがいるのだから。 「昨日、『トロトロ☆みるく』の全キャラ・全ルートを攻略した。  前作の『エロエロ☆みるく』に引き続き、ストーリー構成もキャラ設定も実によかった。  中でも、ゆきなのできちゃった学生婚エンドは感動的だったぞ」 「うるせぇよ」 無表情で淡々とエロゲについて語る錦は、会話の聞こえない程度に離れた位置でこちらを見ている女子たちの目には魅力的に映るだろう。 だが、エロゲ。 残念ながら、エロゲ。 高校2年生の男子児童が性に盛んなのは分かるが、よりによって2次元、それもエロゲに目覚めてしまうとは。 仁徳溢れすぎて逆にたがが外れてしまったのか、錦よ。 こんな事実が学校内に露呈したら、お前何もかも失うぞ。 とは思ったけれど、やはりこいつのことだから、周りの熱烈なファンが上手く揉み消してしまいそうだ。 モテる男は違うな、ほんと羨ましいぜ。 余談だが、以前錦に「17歳のお前が、どのようにしたら18禁ゲームを入手することが出来るのか?」と聞いたことがある。 その際は、「勿論兄さんにネットで買ってもらう」と、至極当然のように返された。
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