4/4
前へ
/88ページ
次へ
「く、れあ……?」 力が抜けたように兄はがくりと膝を付き、前のめりになり倒れた。 相当痛むのか冷や汗が出ている。 「ごめんね?お兄ちゃんは殺しそこねたって事にする」 「な、に…いって…?」 「痛いよね?ごめんなさい、今すぐ救急車呼ぶから。……ちゃんと急所は外してるし、ナイフは刺しっぱなしで止血されてるから…死にはしないはず…。救急車来るまで痛みには耐えてお兄ちゃん…」 「呉亜、…待っ、」 「バイバイ」 兄の絶望した顔を私はこれ以上見ていられなくて、背を向けた。 後ろから私の名前を何度も何度も叫ぶ兄の声が痛い。 でも、今後聞けなくなるから今たくさん聞いて記憶に刻み付けよう。 一歩、私は兄から離れた。 また一歩離れる。 一歩一歩確実に足を進め、家の玄関へと向かう。 「呉亜…!!呉亜!!!」 「ダメ、だよ。お兄ちゃん、血出ちゃうから…叫ばないで」 「っ、こっち向けよ…ッ!呉亜!」 玄関までの道程ってこんな長かったんだ…。 ドアに手をかけた瞬間、よりいっそう大きな声で兄は私の名前を呼んだ。 鍵を開け、ドアを開き、私は振り返る。 最後くらい兄の笑顔を見たかった。 兄にとって私の最後の顔は笑顔であってほしい。 だから笑え、笑え笑え笑え。 「バイバイ、お兄ちゃん。世界で一番愛してた」 ドアを閉めたというのに、ドア越しに私の名前を絶叫する兄の声が、耳に届いた。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加