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駅前の雑踏を抜け、簡素な商店街の横道を入り……私は古びた木造家屋が建ち並ぶ路地裏に出た。
その家屋に挟まれる様にして佇む一件の店の前で私は足を留めた。
その商店のことは四十年経った今でも鮮明に覚えている。
忘れもしない、私がまだ12、3歳だった頃の話だ……
その店は木造の造りに似合わずガラス張りの窓が扉の両脇にあり、そこからはヨーロッパのアンティークの様な物が所狭しと並んでいた。
その中に一際異彩を放つものがあった。
ハサミだ…………。
そこには白銀の刃、長い柄に蔦が絡み付いた模様が刻まれた……鋏が佇んでいた。
私はその鋏に言いようのない不思議な気配を感じた。
喰い入る様に鋏を眺めていた私は背後の気配に全く気付かなかった。
何か用かね。
後ろを振り返ると体格の良い灰色の口髭を蓄えた六十歳位の男性が立っていた。
私は驚きと焦りで上手く言葉を発することが出来なかった。
男は私を見下ろす様に、低く硬質な声音で
またか……。
と呟いた。
男はそう呟くとおもむろに扉を開け
店の中へと消えていった……
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