一日目

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え? その鋏は売り物では、ない。 ただそこに飾ってあるだけだ。 男と私の間に沈黙が流れた。 …………その鋏には持ち主がいる。 ただ、その持ち主は その鋏を使えない状態にある。 だから私はそれを預かっている……。 男の声が少し弱くなった様に私は感じた。 そう、ですか……。 私は鋏を眺めた。 私はこの鋏を手に入れたいと言うより その持ち主が一体どんな人物なのかが 気になり出した。 もし、宜しければ……その持ち主の方の話を聞かせてもらえませんか。 ジーーワ、ジッーージッジッ。 蝉の鳴き声が止んだと同時に 良いだろう。 と男は言った。 しかし、今日はもう遅い。 明日また来るのなら、その話をしよう。 店を出ると 先程まで雲っていた空は晴れ もう夕陽が沈みかけていた……。
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