7人が本棚に入れています
本棚に追加
「さて、これで終わりっと。
お待たせ、リン。帰るわよ」
提出分の書類以外をバインダーにはさんで棚に直して、机に突っ伏してる相棒に声をかける。
「んあ? もういいのか? いくらでも待つよ」
……まだ寝足りないのかしら、この娘。あくびを噛み殺した姿は、休日のぐうたら親父に酷似している。
「っとにもう……。なんなら一生待っててもいいのよ。ナマケモノより性質(たち)悪いわね」
言ってから後悔した。
私としたことが、なんて程度の低い台詞なんだろう。
こんな言葉くらいじゃ、リンは何も感じやしないわ。
ま、もっとも、リンが真剣に焦ったり悩んだりしたとこなんて、そうお目にかかれるもんじゃない。
私が知ってるのも一度だけ……。転生前のあの時だけよ。
「どうした? お腹痛いのか。トイレなら先行っといた方がいいんじゃないか?」
……いえ、分かってるのよ。こういう娘だってのはね……。
少しあの頃を思い出して、湿っぽくなりそうだったのがバカみたい。
「──痛って! 無言でグーはダメだろ。グーはさ」
「うるさいわね。とっとと帰るわよ。昔なら光の槍が飛んでるとこよ」
「……それは勘弁……」
言いながら浮かべる微苦笑が、やっぱりムカつくわね。
でも、それがリンなのよね。本気で魔法のひとつも覚えられないかしら?
最初のコメントを投稿しよう!