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……世界は残酷だ。そして虚構に満ちている。
この世界は偽りだらけで、何を信用していいのか分からない。
少年はそれを知っている。
自分が今まで信じていた“現実”は、事実虚飾に彩られた仮初めだったから。
「ちく、しょう……」
悔しさに少年は奥歯を軋るほど噛み締めた。手のひらに爪が食い込むほど手を握り締めた。
「ちくしょう……ッ!」
眼前に迫ってくるのは少年の身体の二倍はあろうかという巨体。
少年は知っている。経験と事実として知っている。
これは“敵”だ。
自分をこの世界から消し去ろうと牙を剥く、紛うことなき“敵意”の塊。
それが今まさに少年を追い詰め、抹殺せんと近付いてくる。
──素直に恐ろしい、と思った。
仮初めの世界であるにも関わらず、信じてきた“現実”よりも現実らしい死の実感。自分が消えてしまうことへの恐怖。
それらを恐ろしいと思った。死にたくない、と願った。
いや、仮に死ぬのだとしても、最期に会いたい人がいる。
嘘で構成された世界の中で唯一まだ信じている最後の一人に会ってから死にたい──否。叶うのなら死ぬことなく、生き抜いて、“あの人”に会わなければ。
「ちくしょおおおぉおおぉおぉぉおおぉ!!!!」
咆哮し、刃を握り締める。
悪あがきのような最後の抵抗。
だがそこに可能性があるのなら賭けたいと思った。
生き抜きたいという願いは──この偽物の世界の中で──少年が懐いた本当の想いなのだから──!
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