序章

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此処は、五稜郭タワー展望室。 勿論、北海道函館市にある五稜郭タワーだ。 目の前に広がる景色で 最も目に付くのは…   【白】 街並みを彩る色は【白】しか無く、建物や道路、枝だけの木々が発する 濃くも強過ぎる色を適度に緩和しているように見えた。 人々が この【白】を好むのは、自分の中にある暗く澱んだ何かを覆い隠してくれる気がするから……なのかもしれない。 決して鮮やかではない世界は… 隠れた何かを引き出すようで 晒された何かを深く沈めるようで 粟立ちながらも、ホッとさせてくれる不思議なものだった。 「艶香(つやか)。もう、行くわよ。」 展望室の窓から外を ボーッと眺めていた私に、母が言った。 私は、祖母の古稀の御祝いで、北海道に来ていた。 俗に言う「家族旅行」と呼ばれるソレ。 ……正直、面倒臭い。 「うん。今、行く。」 今の季節は 勿論「冬」… どうせ来るなら 桜の季節かイカの季節が良かった そんな愚痴めいた事を思っていると……見事に置き去りにされた。 「普通、置いて行くかぁー?」 今度は 愚痴が声となって表に出る。 とは言っても、次に行く予定の場所は知っているので、然程、焦りはなく歩き出した。
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